494:■ 妖女の湖 投稿者:DAVID 投稿日:2004/03/13(土) 16:16
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■ 妖女の湖 01
モソの女たちが放つ妖しい輝き。 そこを訪れるものは その謎めいた不思議な魅力に とり憑かれてしまう。 瀘沽湖(ルーグーフー)。 彼女たちモソ人が暮らしてきた湖。
瀘沽湖は麗江から北へバスで10時間あまり行った、雲南省と四川省の境に位置している。湖面の海抜は約2700m、緑の山々に囲まれ、深い緑とも青とも何とも例える事の出来ない不思議な色を持った、透き通った水をたたえている。ここに母系制社会を今にいたるまで受け継いできたモソ人が暮らしている。モソ人にとっての瀘沽湖は楽園であり、母なる湖である。
モソ人の母系制社会では通常、結婚の形式をとらず、「走婚(ぞうほん)」と呼ばれる通い婚の形式をとる。男は暗くなってから女の家に行き、夜明け前に自分の母親の家へ帰って行く。そのため、家族のなかに父親や夫と妻という役割は存在せず、また父と子、夫と妻という関係も存在しない。実質上の父親である男は「父」や「夫」ではなく単に「おじさん」と呼ばれている。母親が父親の役割を兼ね、また子供たちは生みの母親だけではなく、家族の大人たちみんなに育てられる。一家の家長は女であり、代々女が家を継いでいく。
母系社会の謎。 「走婚」の謎。 モソの女たちの謎 その妖しげな魅力の謎。 その謎に触れたい。 瀘沽湖へ行ってみた。
■ 妖女の湖 02
瀘沽湖の北に、モソ人が聖なる山として崇める獅子山がそびえている。山の麓と湖にはさまれる形で里格村がある。里格村のさらに先に湖に抱かれるかのように小さな島、里格島が浮かんでいる。
観光地化が進む瀘沽湖の中にあって、ここには伝統的なモソ人の暮らしが色濃く残っている。人々は畑で農作物を栽培し、湖の水を飲み、湖の水で顔を洗い、食べ物を洗い、洗濯をし、湖の魚を獲り、湖内を小船で移動している。家畜として馬、牛、豚、鶏を飼っている。
この島には4,5戸のモソ人の家がある。そのうちの一軒を訪ねた。
迎えてくれたのはアール・ビマ。彼女の家には
母の姉(大ばあちゃん)、アール・チャ−ドゥマ 母(ばあちゃん)、アール・ドゥマ 姉、アール・ライツォ 兄、アール・ヤウウェイホア 姉の子供、長男のルゾ、次女のビマチドゥ
の7人が暮らしている。モソの母系制の例に漏れず、「おじさん」は同じ家には暮らしていない。
モソ人の伝統的家屋は、門を入ってまず中庭があり、中庭を囲む形で母屋、家畜小屋が四方に建っている。中庭では鶏や豚が走り回っている。母屋の中に入ると、まず囲炉裏が目に付く。
モソ人にとって、囲炉裏は生活と切り離せない重要なものだ。どのモソ人の家にも必ず囲炉裏がある。家族は囲炉裏を囲んで食事を作り、食べ、語らう。囲炉裏の前には祭壇があり、仏像などが描かれた絵をかけてある。
母屋の隣りに客間がある建物があり、そこに数日泊めてもらうことにした。
■ 妖女の湖 03
モソ人たちの母系制社会では、一家の大黒柱はもちろん女性だ。ビマの家では、大ばあちゃんが家畜の世話をし、ばあちゃんが放牧、姉が畑仕事、ビマが家事全般をこなしている。仕事は厳密に分かれているわけではなく、分担でするものもあれば、共同でするものもある。
畑仕事などの力仕事は女手では大変だろうと思ってしまうが、彼女たちの力は強く、とてもかなわない。特に姉のライツォは畑で仕事をし、家に帰れば家事をこなし、そのかたわら子供の面倒も見ている。はたで見ていても大変そうだ。
「吃飯了」。ビマの呼ぶ声に母屋へ向かう。食事の時間だ。茶碗に盛られたご飯、ニンニクと油で炒めた薄切りのジャガイモ、瓜、大根を煮たものなど。素材は日本でなじみのあるものばかり。しかし、どの野菜も日本のものよりうまい。
銀魚も食卓に並ぶことがあった。これは瀘沽湖特産の、しらすをもう少し大きくしたような魚で、たいていは天日干しにしたものを食べる。銀魚は自分たちが食べるより売るためのもののようだ。うまくてどんどんご飯が進む。他に湖では鯉が獲れる。これは生臭くて口に合わなかった。
そして「琵琶肉」。「琵琶肉」とは内臓と骨を取り除き、塩や胡椒などをすり込んで乾燥させた豚肉で、長いものでは10年以上保存が効く、モソ独特の食い物である。豚丸ごと1頭の形で保存され、その形から中国楽器の「琵琶」に称されて呼ばれている。調理する前に、細かく切って洗い、水に浸してやわらかくさせる。脂身が多く癖のある味だが、慣れてくるとこれが非常にうまい。
食事での最上のもてなしは、鶏である。鶏を絞めて、ぶつ切りにしたものを煮る。余計な調味料は一切無いので非常にあっさりとしたものだが、その分鶏自体のうまみがよく感じられる。モソ人の家で鶏をふるまわれるということは、彼らから大事な客人として扱われているということである。私も彼らの家で過ごす最後の晩に鶏をふるまってもらい嬉しかった。 ■ 妖女の湖 04 モソ人は13歳になると成人式を迎え、大人の仲間入りをする。自分の民族衣装をもらい、村の年長者に挨拶に行く。モソの女性は年頃になると1人部屋を与えられ、そこで「走婚」に備える。
この家ではビマがその部屋を使っている。部屋の中を見せてもらうと、女の子らしい雰囲気だ。壁には服や帽子がかけられ、それに混じって民族衣装もあった。ベッドには飾りカーテンがかけられている。この部屋に男が通ってきて「走婚」が行われるのだ。全体に質素な作りのモソの家にあって、その部屋だけは明らかに異質な空間に見える。
ビマは今年25歳。「走婚」の相手は今はいないらしい。子供は欲しくないのと尋ねると、「うちは手のかかる子供が2人もいるから、今はまだいらない。落ち着いてから。」とのこと。
モソの家庭では子供は産みの母親だけではなく、家族の大人たち全員から育てられる。ビマの家でも2人の子供は実の母だけでなく、大ばあちゃん、ばあちゃん、ビマと4人の母親がいるようなものである。
モソ社会には、一夫一妻制、未婚の母、シングルマザー、未亡人、私生児という言葉はあり得ない。兄弟で”父親”が違うことも珍しくない。多くの男性と肉体関係を持つことに関して、モソの女性たちの意識はオープンであるように思える。それは我々の社会での価値観とは異なり、もっと根源的な、もしかするとより人間的なものかもしれない。
”父親”不在で育つ子供たち、女中心の家庭。それは我々には不自然な形態に思えてしまうが、どちらが自然なのかよくわからなくなってしまう。モソ社会にももちろん外部からの情報は入ってくる。時代に合わせて一部は変容しながらもなお、自分たちの精神文化の核なるものは守り続けている。
やはりモソ人の最たるものは母系制社会であり、そこが我々が一番に惹かれるところであるのは間違いない。しかしながらそこが一番の謎で、謎は深まるばかり。
謎は解けるのだろうか? 謎が解ければ、幻は消えるだろうか? それとともに彼女たちの あの妖しげな魅力は消えてしまうのだろうか? 彼女たちと一緒に囲炉裏を囲む 揺れる火を前にして やっぱりどうしようもなく 彼女たちの妖しい魅力に 惹かれてしまう
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Re:1:■ 妖女の湖 投稿者:valen 投稿日:2004/03/13(土) 17:10 |
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excellent |
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